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 岐阜県営北方住宅 

(2001/ 6/29)
 2001年度日本建築学会建築計画委員会春季学術研究会のシンポジウムが「公共住宅の行方を探る:岐阜北方集合住宅の試み」というタイトルで開かれた。岐阜北方住宅は岐阜市の西隣・北方町にある県営住宅を建て替えたもので、磯崎 新のコーディネートの下、高橋晶子、妹島和世、クリスティン・ホーリー、エリザベス・ディラーの4名の女性建築家と、1名の女性ランドスケープ・デザイナー(マーサ・シュワルツ)により設計が行われ、平成10年度(第2期は12年度)から供用開始されているものである。全て女性建築家を採用したという点、また相当に大胆な住宅計画という点でも大いに話題を集め、機会があれば見に行きたいと思っていた。
 さて、シンポジウムは、担当建築家の一人、高橋晶子氏の講演の後、高橋棟、妹島棟を対象に住まい手調査を行った、東京理科大の村尾氏、岐阜工専の今田氏から研究報告が行われ、引き続き、東京理科大の初見先生のコーディネーターで、富永 譲、小嶋一浩の両建築家と社会学者の上野千鶴子という取り合わせでパネルディスカッションが行われた。
 テーマは「nLDKの崩壊」。機能と空間を一対一対応して考える「nLDK」思想は、家族の多様化の中でもはやフィクションになってきた、という小嶋氏の指摘で始まったディスカッションは、上野氏の「岐阜北方住宅は、首長のリーダーシップ>県庁職員の使命感>コーディネーターの独裁>建築家の作品主義が生んだ、男性の政治家が女性を使って造った施設に過ぎない」という強烈なメッセージで一躍面白い議論が展開された。熊本の山本理顕による保田窪住宅で住まい方調査を行い、「建築家の意図は空間性だけでは住み手には伝わらない」と批判。北方住宅も同じ系譜の住宅ではあるが、唯一住民に4つの選択肢が与えられた点が評価されると手厳しい。また社会学的に、「nLDKの崩壊」の要因といわれる「家族の崩壊」を「家族機能の崩壊=家事・育児・介護機能の外部化」と定義し、nLDKの否定は住戸ユニットの否定につながる問題であるという指摘もあった。
 機能の外部化という視点で言えば、生産機能や介護機能の内部化といった動きもあり、今後は住宅が想定すべき機能の多様化を念頭に置いた設計が求められる。ディスカッションでは公共住宅における制度変更の必要性まで踏み込んで議論がされ、さらには機能を議論しても仕方がない、計画スパンや設備をどう捉えるかこそ議論すべきだ、といった意見があがっていた。もちろん、計画スパンという意味では妹島棟が念頭に置かれていたことは言うまでもない。

 さて、シンポジウムが終わった後、名鉄電車(市電)に揺られ現地まで足をのばした。名鉄揖斐線、北方千歳町駅から歩くこと10分。妻面に様々な絵が描かれた中層の北ブロックを過ぎると、RC8〜10階建ての高層住宅棟が圧倒的な勢いで迫ってくる。鉄骨を多用した外観は今風に軽い印象だが、従前入居していたであろう高齢者にはどんなふうに映っているだろうか。パンチングメタルで覆われたディラー棟は、微妙に階高や壁面が変化しながらゆるやかなカーブを描いている。廊下を歩くと見た目にはわからないスロープが感覚を少し狂わせる。廊下の先に入り口、さらに曲がった先に入り口という構成は意外にプライバシーを守ってくれるかもしれない。この棟の住戸の特徴はロフト風の可動間仕切りで仕切られた自由な平面構成だという。

ディラー棟北面/高橋棟南面

高橋棟北面
  中庭とホーリィ棟、妹島棟
高橋棟北面

 ディラー棟に続いて西に立地するのが、高橋棟。北側の斜め階段はすごいという印象だが、実際にはエレベータでアプローチすれば問題はない。南側のボイドスラブが表情を醸し出す外観は明るく、洗濯物や布団も翻り、バルコニーの緑がアクセントを加え、生活感があふれる。住戸計画は純日本風「田の字プラン」に可動家具を組み合わせたもので、高齢者にとっては一番なじみがいい。
 集会所を隔て南隣するホーリィ棟はメゾネット・タイプの住戸が特徴。住戸にアプローチする階段・廊下も住戸から離れ、デッキで各住戸につながる。南に大きく張り出したアール状の部分が特徴的だが、それほど大きな印象は残さなかった。

ホーリィ棟南面

妹島棟  南面/北面

 その東隣にかぎ状に配置されているのが妹島棟である。壁式ラーメンの厚い壁がバルコニーを廃して規則的かつスレンダーに並ぶ外観は不安定にも映り、印象的である。最大の特徴は各ユニットが、1組の通り抜けテラスと複数同質の部屋で構成されており、各部屋は南側の広縁からのアプローチとともに廊下側へも開いている点であろう。実際には廊下側はDK部分の入り口のみが開いているケースがほとんどである。廊下を歩くと通り抜けテラスは覗き込むことができるが、物干場として使用されているもの、物置となっているものなど様々だ。いずれにせよ外からの視線はかなり意識されている印象を受けた。
 北方住宅のもう一つの特徴が中庭だろう。桜の前庭、アイリス・カナル、ダンス・フロア、柳の庭、石庭、スポーツ広場、竹庭、四季の庭。それぞれに名付けられた庭が南北住棟の間に並ぶ。庭では幼い子供と付き添いの母親の輪が見られる。楽しい空間ではあるが、住宅団地の庭として適当かどうかは、見ただけではわからない。

妹島棟テラス/中庭(四季の庭)

 住宅団地全体としても、建築の専門家として担当してみたい計画ではあるけれど、住宅計画として優れているのかどうかはまだこれからの評価だと思わざるを得ない。いつかアメリカの某団地のようにダイナマイトで吹き飛ばされるのかもしれないし、北方町のビューポイントとして末永く市民に愛されていくのかもしれない。それは空間だけが決めるのではなく、町と住民と団地管理者との相互作用の中で結論が出ていくものだと思う。




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