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2008年・サッカーの書棚




2007年・サッカーの書棚


オレンジの呪縛  (デイヴィッド・ウィナー 講談社)  2008.11.16

 序章冒頭の書き出しが、この本の内容と性格を十全に表されている。そしてこういう本を読むことが、サッカー本フリークの一番の楽しみだ。そしてもちろん、オランダ・サッカーへの愛情に溢れている。しかし実は、筆者のデヴィッド・ウィナーはイギリスのフリー・ジャーナリストにして、アーセナル・ファン。もっとも最近のアーセナル・サッカーとオランダ・サッカーの親和性は高いかもしれない。
 オランダ・サッカーと言えば当然、70年代前半のトータル・フットボールとクライフを中心に展開する。しかしこの本では、それをただ礼賛するのではなく、トータル・フットボールが生まれた社会背景や歴史、文化、国民の気質を探り、関係性を追求する。特にオランダの構造主義建築やスキポール空港の空間構成、オランダの都市づくりなど、建築・都市計画に多く言及されるのも嬉しい。
 そのために、歴代の選手、監督は言うに及ばず、哲学者、建築家、ランドスケープ・デザイナー、画家、バレーの振付師、歴史学者、パフォーマーなど、さまざまな人々に取材し、さまざまな声が紹介される。そしてそれらが見事に構成され提示される。
 各章の章番号がまた面白い。ユニホームの背番号で表示され、最初は5、次いで7、もちろん14は欠かせない、10、2、11とその背番号を背負った選手に関係する内容が書かれる。そして最後は5/6。これは2000ユーロ・イタリア戦のPKの結果だ。それも外した割合。
 示唆に満ち、ユーモアに溢れ、愛を感じる。今でもサッカー本最高の本は「サッカー狂い」と思っているが、それに匹敵する好著だと言える。



季刊サッカー批評 40 (双葉社)   2008.9.17

 「欧州サッカーを疑え!」。サッカー批評誌、久しぶりの海外サッカー特集だ。「日本が先進国から学べることをリアルに考える」という副題が示しているのは、単に技術や戦術を学ぶだけではなく、クラブ運営に係るGMへのインタビューやドイツ、イングランド等のリーグ運営などを取材する。それもよい例を取り上げるだけでなく、イタリアやプレミア・バブルへの疑義など批判すべき点は批判しようという姿勢を明らかにしている点が面白い。
 そして、先日亡くなった長沼健氏への追悼記事。大分トリニータの胸スポンサー問題。海を越えてきたフットボーラーのズドラブド・ゼムノビッチへのインタビューも興味深い。
 ところで今号で紹介された書籍はどれも面白そう。そうだ、読者プレゼントに応募しよう!



季刊サッカー批評 39 (双葉社)   2008.6.15

 特集は「日本サッカーの十戒 いまサッカー界が守るべき10の戒律」。その1「選手生命をJリーグが奪ってはいけない」。我那覇のドーピング事件だ。先日、CASの裁定により、Jリーグ側の間違いが明らかにされ、我那覇側が全面勝訴した。しかしその経緯や真実については、裁定後のマスコミを読んでもほとんどその実態は報道されていない。謝罪に値するどんなひどいことをしたのか。それが明らかにされなければ、謝罪で済む問題かどうかもわからない。潔く謝罪した、という勘違いさえあり得るではないか。その点でも、この記事の意義は大きい。
 その3「リーダーたる者、晩節を汚すべからず」。佐山一郎氏による「我らが非凡人会長、その高すぎる熱の功罪」は、川渕会長の特異な性格と行動力がいかに日本サッカーを率いてきたか、今も君臨し続けることの功罪も含めて描く。「後継者づくりの要諦は、まずゆずり葉よろしくその「私」がすっきり立ち去ることでしょう。」(P036)。同時に置かれている「各国サッカー協会の会長事情」も興味深い。どこの国も会長が全てではないが、日本の会長は全てになりたがっていないか?
 ユーロ2008、そしてW杯アジア3次予選、さらには北京五輪を目前に控えた時期に、戦力や戦術等と一切関係のない記事ばかりで構成してしまうのは、いかにも「サッカー批評」らしい。そしてだからこそ楽しい。



砂糖をまぶしたパス  (市之瀬敦 白水社)  2008.5.14

 副題は「ポルトガル語のフットボール」。タイトルの「砂糖をまぶしたパス」とは、ブラジルやポルトガルで言われる「どうぞ点を取ってください」というような絶妙なパスのこと。著者の市之瀬敦氏は、現在、上智大学外国語学部准教授を務めるポルトガル語学の先生である。同時に、サッカーファンには、多くのポルトガル関連のサッカー状況を披露する著作や記事の執筆者として知られる。私も市之瀬氏の書かれた記事は読んだ記憶があるが、こうして本としてまとまったものを読むのは初めて。だが、とても楽しくあっと言う間に読み終えた。
 全体は3部構成。第1章の「独裁者はサッカーがお好き」では、20世紀中期のほぼ同じ時期に独裁政権を経験したブラジルとポルトガルにおけるサッカーと政治の関係が語られる。しかし、必ずしも暗い筆致ではなく、ポルトガル・サラザール時代における他のヨーロッパ諸国に取り残された植民地政策とサッカーの関係など、ヨーロッパの辺境の小国にして大航海時代を誇りに持つ悲哀やユーモアすら感じられる。
 第2章の「三角パスが通った!」とは、ワールドカップ・ドイツ大会で初めてポルトガル語圏の国が3カ国そろったことを示す。ブラジル、ポルトガルにアンゴラだ。世界でポルトガル語を公用語にしているのは、わずか8カ国だけという。上記3カ国に加え、モザンビーク、ギニア・ビサウ、カボ・ベルデ、サントメ・プリンシペ、そして東ティモール。ギニア・ビサウはまだしも次の2国は聞いたこともなかった。いずれもアフリカの国。最後の東ティモールは、最近インドネシアから独立したことは知っていたが、ポルトガル語圏とは知らなかった。こうした国々を紹介しつつ、ワールドカップ・ドイツ大会を振り返り、ついでにブラジル人ジーコが率いた日本代表の戦績とジーコとのすれ違いに触れる。
 最後の第3章は「サッカーを規定する言葉」。タイトルほど大袈裟な話ではなく、ポルトガル語にまつわるサッカー話をいくつか披露。なぜブラジル人選手はニックネームで呼ばれるのか。セレソンの意味。ポルトガルの外国人選手と国外に帰化したポルトガル選手などなど。どの話題も楽しく興味が尽きない。
 最後には、いよいよ始まるユーロ2008やワールドカップ南アフリカ大会、さらに次回アンゴラで開催されるアフリカ選手権での各国の活躍にも心と筆が飛ぶ。これを読んだ後、ポルトガル・サッカーを見ると、楽しさが倍増すること間違いなし。でも、クリスティアーノ・ロナウドのことが全く出て来ないのは何故かな。デコやナニは出てくるのに。どうしてだろう。



サッカー批評 38 (双葉社)  2008.3.19

 表紙いっぱいに岡田監督の大きな顔写真。「『岡田武史』なんて、知らない」という白抜き見出し。オシムの成果の継承を望むべくもない岡田監督の就任という事態に、「代表への興味を失った」「前のように熱くなれない」といった文章をいくつかのブログで見かける。岡田監督の手腕に対する疑問というより、就任時の理由として挙げられた「オシム監督の土台を大切にそこから積み上げられる人」という言葉に対する懐疑とそこから派生する協会への不信感がそこにはある。
 冒頭の記事はまさにその疑問に答えるべく、小野技術委員長のインタビューで始められる。そして語られるのが、「オシム監督の土台」とはオシムサッカーの継承ではなく、「日本サッカーの日本化」というオシムサッカーのコンセプトの継承であった、ということ。そのコンセプトの下で、岡田監督が考える日本化されたサッカーづくりが目指されている。そしてオシムと微妙に異なるその方向に対して、多くのブロガーたちが懐疑的になっているのだ。果たして日本サッカーは既に日本人の手で日本化できるだけのノウハウや経験を手にしているのか。確かに半信半疑なことこの上ないが、今となっては祈るような気持ちで岡田監督に託すしかない。
 今号全体を流れるもう一つのテーマが、監督やGM、フロントといった選手を支え、チームをマネジメントする影の主役たち。中でも降格・残留を経験した柏レイソルと横浜FCの対照的なチーム戦略やJFLの門番としてアマチュアを守るHONDA FCのチーム・フィロソフィーに関する記事が興味を引く。
 また、ガイナーレ鳥取のタイ人監督、ヴィタヤ・ラオハクルの記事やアルゼンチン審判事情なども興味深い。日本未翻訳洋書を紹介するOverseasで紹介された「THE OUTCASTS! The Lands That FIFA Forgot」も面白い。



祖母力 (祖母井秀隆 光文社)  2008.3.4

 祖母井秀隆。ジェフの元GMにしてオシムをジェフに招聘してきた男。オシムの代表監督就任と前後して、フランス2部リーグ、グルノーブルのGMとして渡仏した。ジェフ時代、オシムだけでなく、ザムフィールやベルデニックなど一貫して欧米の監督を招聘するとともに、阿部や山岸、佐藤勇人等をジェフユースから育て上げ、オシムともどもジェフ再興の貢献者と言える。
 その名前はもちろん知っていたが、ジェフのGMになるまでの経歴は知らなかった。「オシムが心酔した男の行動哲学」というサブタイトルが付けられているが、内容は祖母井氏の自伝と言っていい。祖母井の後輩でジェフ時代のGM補佐を務めた辰巳直祐が企画監修、各章の間に関係者のインタビュー記事も挟まれた企画本である。こうした本の場合、どこまで祖母井氏自身が筆を執っているのか知らないが、年少期から現在に至るまで、非常にわかりやすく書かれており、氏の半生を十全に伺い知ることができる。加えて、オシム代表就任前後の状況や脳梗塞で倒れた時の状況なども正直に書かれており興味深い。
 祖母井氏自身は本書で何度も書かれているとおり規格外の人間であると思う。ここまでの行動力を持つ人物はなかなかいない。古河工業や川淵キャプテンを中心とする旧態然とした日本サッカー界の現状も書かれているだけに、いつか氏に日本サッカー協会の仕事に関わってもらい、この鬱屈した空気を吹き払ってもらいたいという思いを強くする。しかしその前に氏にはグルノーブルでの仕事が待っている。まずはそこで精一杯頑張ってほしい。そして、同じグルノーブルへ移籍した伊藤翔も大きく羽ばたかせてほしい。



RUN (小宮良之 ダイヤモンド社)  2008.2.26

 「情熱大陸」で福田健二の特集をやっていた。そう言えば福田健二を取り上げたノンフィクションが出ていたっけ。無性に読みたくなりAmazonで購入した。読んでみれば、あっと言う間に読み終わる。しかし、特に前半、電車の中で読みながら熱いものがこみ上げてきて困った。サッカーに賭ける人生。共に戦う家族。自分を信じる生き方。福田健二の生き方は確かに私の心を打ち、感動を与える。その生き方に感動を覚えるサッカー選手は少ない。

 たった3行の遺書を残して自殺した母。その母を求めて、母の言いたかったことを求めて、福田はサッカーを続けてきた。
 僕が福田を知ったのは、名古屋グランパスに期待の新人として入団してきた時から。当時からストライカーらしいストライカーとして評価を得ていたが、入団当初の輝きは次第に衰え、いつしか移籍し僕の意識から消えた。そしてパラグアイへ移籍したという記事を読んだ時には、静かに彼のチャレンジを応援していた。その後、メキシコを経てスペイン2部へ移籍し2年目の昨年はヌマンシアでチーム得点王の活躍をし、日本代表候補に彼の名前が挙がった時は、本当にうれしかった。
 その彼が先日の情熱大陸では、今年移籍したラス・パルナスで不調に苦しんでいるという。少年のような彼を娘とともに支える妻の姿も心を打った。ようやく出場したゲームでロスタイムにPKを得て、そしてはずした。TVはその残酷なシーンで終わった。そしてこの本が無性に読みたくなった。
 あっという間に読める簡単な本である。内容も同じことを繰り返しているに過ぎない。それでもそれを補って余りある人生がそこにある。福田のこれからの闘いも応援していきたい。そう思わせる人生だ。

     ・・・何となく村上春樹風で面白かったので。



メキシコの青い空 (山本浩 新潮社)   2008.1.29

 NHKの名スポーツアナウンサーであった山本浩氏が振り返るサッカー実況20年の記録。タイトルは山本氏が担当したW杯メキシコ大会アジア地区最終予選、国立競技場で行われた日本対韓国戦の有名な最初の一言に由来する。「東京・千駄ヶ谷の国立競技場の曇り空の向こうに、メキシコの青い空が近づいているような気がします」。木村和史の伝説的なフリーキックが生まれたこのゲームから、ドイツW杯決勝戦のフランス対イタリアまで、山本氏が担当したサッカー実況でのコメントを随所に挟みながら、この20年間の日本サッカーの歴史を振り返る。
 この日本対韓国戦に始まり、マラドーナの神の手ゴールと5人抜きで有名なW杯メキシコ大会のイングランド対アルゼンチン戦、93年のJリーグ開幕戦であるヴェルディ対マリノス、同じく93年W杯アメリカ大会アジア最終予選の最終戦日本対イラクで起きたドーハの悲劇。97年日本がW杯初出場を決めたW杯フランス大会アジア地区第3代表決定戦日本対イランのジョホールバル。W杯フランス大会の日本初戦アルゼンチン戦、そして3連敗を喫したジャマイカ戦。さらにフリューゲルス最後のゲーム、99年天皇杯決勝でのエスパルスとのゲーム。W杯日韓大会日本初戦にして初めての勝ち点を上げたベルギー戦、その決勝ドイツ対ブラジル戦。反日行動の嵐の中で行われた04年アジアカップの決勝日本対中国戦。さらにW杯ドイツ大会の決勝フランス対イタリアまで、山本氏が担当したゲームを数え上げるだけで、日本サッカー史は十分語り尽くすことができる。
 本を読みながらその当時のゲームや感動を思い出す。後藤健生氏などが書くサッカー史とはひと味違ったサッカーの歴史を感じることができる。アナウンサーならではの実況技術の解説も興味深い。フランスW杯組合せ抽選会の日本Hグループの謎も初めて聞いた話で興味を引く。



2007年以前のログは、(遊)OZAKI組「STOCK YARD」



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